好熱菌由来耐熱性酵素は産業用酵素などとして注目を浴び、基礎研究から応用研究が盛んになされています。これに対し低温適応酵素も幅広い分野での産業利用の可能性が謳われているにも関わらず、そこまで至っていません。これは低温菌や低温適応酵素の研究があまり進んでいないことと低温適応酵素の安定性が低いと信じられていることが考えられます。
そこで私たちの研究グループでは低温適応酵素のタンパク質工学的利用を狙い、酵素の低温適応酵素のタンパク質工学的利用を狙い、酵素の低温適応機構を原子レベルで解明することを目指しています。
南極産好冷細菌Pseudoalteromonas sp.AS-131由来グルコキナーゼは低温適応酵素にも関わらず、高い熱安定性をもつことが明らかになっています。この分子メカニズムを静的・動的構造解析(X線結晶構造解析(HAG法)・部位特異的スピンラベル電子スピン共鳴法)により解き明かすことで、他の酵素を高熱安定化または低温適応化するための知見を得たいと考えています。
最終的には、得られた知見をもとに様々な酵素を自在に低温適応化、高熱安定化する技術を確立し、これまでにない新しいタンパク質工学的利用を目指します。
また同じく南極産好冷細菌Shewanella sp. AS-11由来無機ピロフォスファターゼは活性中心に2つのMnイオンを持っています。この酵素は活性中心の金属種を変えるだけで、酵素活性を落とさずに至適温度や熱安定性が変化します。
これは他の酵素には見られない特徴です。私たちはこの特異な性質を分子レベルで解き明かすためX線結晶構造解析に取り組み、基質結合型・非結合型の双方で結晶構造解析に成功しました(PDB ID:6LL7, 6LL8)。
さらに溶液中での構造解析として電子スピン共鳴法を利用し、本酵素だけに見られる活性中心の特異性および基質結合にともなうユニークな活性中心の構造変化を見出しました。
今後は上述したユニークな活性中心の構造変化がなぜもたらされるのかを解明したいと考えています。
(佐賀大学農学部・渡邉 啓一名誉教授、理化学研究所播磨研究所・杉本 宏専任研究員との共同研究)
深海は極地の様な低温環境である上に高圧です。そのような環境からも多くの生物が発見されていますが、そのような生物の持つタンパク質(酵素)はどのようにして過酷な環境に適応しているのでしょうか。これを解き明かすため、マリアナ海溝で採取された耐圧菌由来金属酵素の構造解析や生化学的解析を現在進めています。
本研究を通して、これまでに発見されていないタンパク質機能における法則を見つけ出し、酵素の産業利用の進歩に貢献したいと考えています。
タンパク質には活性中心や構造変化を伴う機能発現に遷移金属イオン(鉄イオン、マンガンイオン等)が重要な働きを持つものが数多く存在しています。それらは金属タンパク質と呼ばれており、その代表例がヘムタンパク質です。ヘムタンパク質は活性中心に鉄ポルフィリンを持っていて、この鉄イオンの電子状態の変化がヘムタンパク質の機能に重要な役割を果たしています。電子状態を詳細に知る有力な手段として電子スピン共鳴法(別名:電子常磁性共鳴法、ESR、EPR)という磁気的測定法があり、これまでESRが金属タンパク質の電子状態研究の中心を担ってきました。
ところが、市販されているESR装置では検出限界があり、すべてのヘムタンパク質、特に整数スピンを持つヘムタンパク質の電子状態研究はあまり進んでいません。
そこで、私たちは市販されているものより強磁場、高周波数ESR装置(神戸大学分子フォトサイエンス研究センターにて開発)や福井大学で開発されているジャイロトロン発振器を利用したジャイロトロンESR装置を用いて、金属タンパク質研究を展開しています。
(神戸大学分子フォトサイエンス研究センター・太田 仁教授、奈良女子大学理学部化学科・藤井 浩教授との共同研究)
北海道大学・先端生命科学研究院・X線構造生物学研究室(姚 閔教授)
東北大学・生命科学研究科・応用生命分子解析分野(田中 良和教授)
産業技術総合研究所・創薬基盤研究部門・最先端バイオ技術探求グループ(鴫 直樹主任研究員)
分子科学研究所生命・錯体分子科学研究領域・青野研究室(青野 重利教授)
理化学研究所・播磨研究所・生命系放射光利用システム開発チーム(杉本 宏専任研究員)
兵庫県立大学・大学院生命理学研究科・細胞制御学II分野(當舎 武彦教授)
大阪大学・産業科学研究所・量子ビーム物質科学研究分野(小林 一雄特任教授)
(順不同)
基盤研究(B)
『EPR・X線による深海および南極海微生物由来酵素の高活性・高安定性機構の解明』
研究代表者
研究期間:2023-2025
新学術領域研究(研究領域提案型)
『生命金属動態の解明に向けた光照射EPR技術による新しい酵素反応機構解析法の開発』
研究代表者
研究期間:2022-2023
挑戦的研究(萌芽)
『新しい金属酵素研究へのテラヘルツ電子スピン共鳴法の応用』
研究代表者
研究期間:2021-2023
基盤研究(B)
『核共鳴散乱分光を駆使した鉄複核中心と気体分子の化学の解明』
研究分担者(代表者:當舎武彦先生)
研究期間:2021-2023
基盤研究(B)
『tRNA硫黄修飾塩基の生合成・分解系の多様性とその分子基盤』
研究分担者(代表者:鴫直樹先生)
研究期間:2021-2023
基盤研究(C)
『熱帯樹木由来高活性イソプレン合成酵素の探索とハイブリッド型発酵用高機能酵素の開発』
研究分担者(代表者:屋宏典先生)
研究期間:2022-2024
神戸大学分子フォトサイエンス研究センター共同利用
『テラヘルツESR法による金属タンパク質の電子状態研究』
研究代表者:堀谷 正樹
研究期間:2023-2024
福井大学遠赤外領域開発研究センター共同研究
『ジャイロトロンESR法による整数スピン系金属タンパク質の信号検出』
研究代表者:堀谷 正樹
研究分担者:黒岩 もね
研究期間:2023-2024
文部科学省・基盤研究(B)
『好冷細菌由来低温適応酵素グルコキナーゼにおける低温適応機構の分子メカニズム解明』
研究代表者
研究期間:2018-2020
福井大学遠赤外領域開発研究センター共同研究
『ジャイロトロンESR法による整数スピン系金属タンパク質の信号検出』
研究代表者
研究分担者:宮崎 ひかる
文部科学省・卓越研究員事業
Leading Initiative for Excellent Young Researchers (LEADER)
研究代表者(卓越研究員)
研究期間:2016-2021
神戸大学分子フォトサイエンス研究センター共同利用
『テラヘルツESR法による金属タンパク質の電子状態研究』
研究代表者
分担研究者:二宮 春菜
研究期間:2017-2021
文部科学省・科学研究費補助事業
研究活動スタート支援
『低温適応酵素における低温適応機構の分子メカニズムの解明』
研究代表者
研究期間:2017-2018